「natuRe waikiki」「53 BY THE SEA」 2人の日本人シェフが提示する、新たな、食の到達点|Experience|SAISON Luxury Lounge
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「natuRe waikiki」「53 BY THE SEA」 2人の日本人シェフが提示する、新たな、食の到達点

ハワイの美食シーンが今、大きな転換期を迎えています。
かつての華やかな演出や希少食材の誇示から、素材そのものの生命力や土地の物語を味わう「ピュア」な体験へと、価値観がシフトしているのです。

ハワイの風土と共鳴し、食の本質を問い続ける2人の日本人シェフ。
彼らが見つめる、ハワイのニュースタンダードを追いました。

成熟の先に生まれた、ハワイの「純度」

1990年代、四方を海に囲まれたハワイに「地産地消」という思想の種が蒔かれました。
地元の食材を主役に据えた「ハワイ・リージョナル・キュイジーヌ」の誕生です。
これをきっかけに、島の食文化は一気に進化を遂げました。

あれから30年。
「ハワイ産」という看板を掲げること自体が挑戦であった時代は過ぎ、今やその土壌が育む一粒一葉の力強い生命力は、世界を魅了する一級のスタンダードフードとして結実しています。

こうした美食の成熟を経て、人々が次に求めているのは、単なる地場産という記号を超えた「精神的な充足」でしょう。
土地が本来宿している「野生」、素材そのものの「命の純度」をいかに引き出すか。
着飾るような贅沢を削ぎ落とし、足元の土壌と深く対話する。
この真摯なアプローチが、本物を知るゲストたちの五感を、静かに揺さぶります。

その最前線に立つのは、対照的な個性を放つ2人の日本人。
背景も手法も異なる彼らが、それぞれの一皿に込める「ハワイへの敬意」の深さを紐解いていきましょう。

#1 natuRe waikiki
島の生態系を編み直す、「再生」のガストロノミー。

賑わうカラカウア通りの喧騒を離れ、一本それたシーサイド・アベニューの一角に隠れ家のように佇む「natuRe waikiki(ナチュール・ワイキキ)」。
扉の先には、剥き出しのコンクリートが放つ静謐さと、選び抜かれた木材の温かみが共鳴する空間が広がります。

オープンキッチンに立つのは、この場を仕切る小川苗氏。
「再生(リジェネラティブ)」というテーマを掲げる彼女の原点は、ハワイの野生と対峙する中で得た一筋の確信にありました。

↑限定10席のシェフズテーブル。natuRe waikikiの思想が目の前で一皿へと昇華されるこの席こそ、ゲストと作り手が深く共鳴する「核心部」です。

「かつては食材を『届くもの』と捉え、厨房でいかに技術を磨くかにフォーカスしていました。けれど、自ら山に入り、農家と触れ合い、野生の命と対峙するうちに、『料理は自然の営みそのもの』だという真理が、静かに、腑に落ちたのです」(小川氏)

その気づきは、カウンター越しに供される一皿一皿に、確かな手触りとなって現れます。

たとえば、薪火で燻したアワビ。
その燃料となるのは、在来種を脅かす外来種として伐採されたキアベの木です。
小川氏は自ら山へ入り、厄介者とされるその木を、香り高い薪として厨房へと持ち帰ります。
鼻腔をくすぐる力強くも甘いキアベの薫りは、アワビの凝縮された旨味を一層深く引き立て、現地でしか出合えないヤシの新芽(ハートオブパーム)の瑞々しさと鮮烈なコントラストを描き出します。

アワビとハーツ・オブ・パームのスモーク:「ハワイの生態系を守りたい」という願いが込められた一皿。自ら伐採したキアベの薪で、希少なヤシの新芽をスモークし、島の記憶を凝縮。

メインの牛肉も、島の健全なバランスを願うからこそ選ばれた一品です。
揺らめく薪の熱を自在に操り、表面はパリッと香ばしく、芯は驚くほどしっとりと柔らかな質感に。
噛み締めるほどに溢れる野生の滋味は、熟練の発酵技術を用いたソースによって、気品ある余韻へと昇華されていきます。

ハワイ島産鹿肉の薪焼き: マヒアイマーケットから届く、作り手の顔が見える旬の野菜とともに。薪火ならではの香ばしさが、素材が持つ野生のエネルギーを呼び覚まします。

締めくくりのデザートは、かつて日本からの移住者が持ち込んだ紅芋の濃厚な甘みと、カシューナッツのアイスが溶け合う多層的な一皿。
乳製品を使わないアプローチは、素材そのものの輪郭を際立たせるための選択です。

紫紅芋のヴィーガンデザート: かつて日本から渡った移民が伝えたとされる紫紅芋を使用。島の歴史と、身体への優しさが溶け合う、心に響くフィナーレです。

小川氏は自らに課した「独自のルール」について、こう語ります。

「生態系を乱すからと伐採された木を扱うことも、植物の力だけで一皿を組み立てることも、最高にクリエイティブな挑戦です。ハワイの自然が抱える今の姿を丸ごと受け止めて、『美味しさ』へつなげる私なりのアプローチです。あえて既存の美食の王道から離れて、土地の現実に根ざした約束事をつくるからこそ、素材の未知なる表情が生まれる。それは、目の前の資源をただ消費して終わらせるのではなく、食を通じてハワイの環境を次世代へ繋ぐ架け橋になると信じています。この一歩一歩が、私の料理人としての原動力になっています」

食という営みが、ハワイの土壌にどのような因果を刻むのか。彼女が作る一皿には、その倫理的な問いかけが含まれています。

Chef Profile:小川 苗

東京・南青山の「NARISAWA」での修行を経て渡米。N.Y.の「Bouley」などで研鑽を積み、2021年「natuRe waikiki」のシェフに就任。ハワイの権威ある食の賞「ハレアイナ賞」を受賞するなど、次世代を担うサステナブル・ガストロノミーの旗手として注目を集める。

Information

natuRe waikiki
住所:413 Seaside Ave, 2nd Fl, Honolulu, HI 96815
TEL:+1 808-212-9188
営業時間:17:30 - 22:00(火曜定休)
※Testing Menu:17:30 - 20:30(last seating)
※A la carte and Bar:17:30 - 21:45(last seating)
HP:naturewaikiki.com

#2 53 BY THE SEA
ハワイの生命力」をひと皿に。

カカアコの波打ち際に立つ白亜の邸宅、「53 BY THE SEA(フィフティスリー・バイ・ザ・シー)」。
重厚な扉を開けた先に広がるのは、ダイヤモンドヘッドとワイキキの海を一望するパノラマです。
ハワイ屈指の絶景を背に、Master Exective Chef & Excective Director・河合隆良氏は、ただ真摯に食材と向き合います。

↑ダイヤモンドヘッドを臨む圧倒的パノラマ。「53 BY THE SEA」での食体験を唯一無二にする最高のスパイスです。

「私のスタイルは、自然の流れに逆らわずに、良い素材をそのまま美味しくすること。フレンチという枠にこだわらず、素材が持つ力を信じることです。ハワイの農家には日本にルーツを持つ方が多く、『美味しく育てよう』という情熱が根底に流れています。形はいびつでも、驚くほど素材本来の旨味が凝縮されていたりするのです。地元のスモールファームから届く野菜や、放し飼いで健やかに育った鶏や牛。ハワイの豊かな資源の持ち味を壊さないことが、料理人としてのこだわりです」(河合氏)

かつてパン・パシフィック・ホテル横浜(現・横浜ベイホテル東急)の総料理長を務め、エリザベス女王や上皇上皇后両陛下への献立を任されるなど、世界の頂点を知る名匠が今、辿り着いた境地。
それは、技巧を誇示することではなく、素材の「ピュアさ」を究極まで突き詰めることでした。

「まず一番に綺麗なものを見せたい」と語る前菜には、農園と食卓を最短距離で結ぶ「ファームトゥテーブル」の精神が宿ります。
地元のスモールファームから届く、生命力に満ちた野菜。その一粒一葉が持つ個性を最大限に引き出し、まるで皿の上に「風景」を描くように表現するその手法は圧巻。
フェンネルのピューレが持つ甘み、そしてシャンパンビネガーの柔らかな酸味が、重なり合う魚介の旨味を鮮やかに際立たせています。

「まずは目を楽しませ、一口食べれば驚きがある。二段階の感動をお届けします」

↑地場野菜のガーデンサラダ:「日本人がルーツにある農家の情熱」を体現した一皿。不揃いな形さえも生命力の証として、フェンネルのピューレと共に鮮やかな「庭園」へと昇華。

ホタテとフォアグラを合わせた一品では、テーブルサイドで熱々のサツマイモのパルマンティエを注ぎ入れる演出。
立ち上がる香りとともにゲストの期待を最高潮に高めます。

メインは、ダイナミックな骨付きの「トマホークステーキ」。
常に完璧なクオリティを供するための最適解として、緻密な温度管理による低温調理を採用。
肉の細胞を壊さず、驚くほどしっとりと柔らかな質感を引き出しています。

↑ホタテとフォアグラのパルマンティエ: サツマイモのパルマンティエを目の前で注ぎ入れる演出は、河合シェフが重んじる「適温の美学」の象徴。香りが立ち上る瞬間、最高潮の美食体験が始まります。

↑キアベで焼き上げるトマホークステーキ: ダイナミックな見た目とは裏腹に、熟練の低温調理が施された身は驚くほど繊細。「53 BY THE SEA」が誇る、生命の躍動を感じるシグネチャーです。

「一定のクオリティを守り抜くことは最低限の責任。合理的な手法を選び、素材の良さが損なわれない状態を保ちます。そして、何より大切にするのはゲストの健康。成長ホルモン剤などを使わない、島の健全な食材を『適量』いただく。ここで過ごした時間が、食生活を見直すきっかけになればと願っています。量ではなく質を求める、成熟した大人たちが羽を休める場所。それが、私の理想とするレストランの姿であり、ここで表現したい物語なのです」

Chef Profile:河合 隆良

「パン・パシフィック・ホテル・サンフランシスコ」および「パン・パシフィック・ホテル横浜(現・横浜ベイホテル東急)」の両職で総料理長を歴任。エリザベス女王や上皇上皇后両陛下、歴代首相への料理も担当し、かつて「料理の鉄人」で美食の競演を繰り広げた伝説の料理人。自身の名を冠した「Chez TAKA」のオーナーシェフを経て、2025年より「53 BY THE SEA」のMaster Exective Chef & Excective Directorに就任。

Information

53 BY THE SEA
住所:53 Ahui St, Honolulu, HI 96813
TEL:+1 808-536-5353
営業時間:17:00-Closing(Dinner)/ 11:00-14:00(Lunch 土・日曜)/ 14:00-16:30(Happy Hour 土・日曜)
HP:53bythesea.com

「ありのまま」という、究極の贅沢へ

小川苗氏が取り組む、島の生態系を編み直す循環の一皿。
河合隆良氏が追求する、技巧を排し素材本来の力を引き出す「純粋さ」の一皿。

若き感性と熟練の技。
アプローチは対照的ながら、両者が共通して見据えるのは、ハワイという土地が育む生命力と、それを口にするゲストの健やかな未来です。

何を、どう食べるか。
その選択は、ハワイの美しい姿を守り、自身の身体をも形作ることにつながります。

2人が提示する「ありのままのハワイをいただく」という食のあり方は、かつての「リージョナル・キュイジーヌ」に次ぐ、新たなスタンダードとなっていくのかもしれません。