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開催日: ~ 2025/03/31
世界や日本のTOPとして活躍する人物の思考・生き方に触れ、あなたの新たな好奇心を目覚めさせるための新連載“WAKE-ウェイク-”がスタート。
記念すべき第1回のゲストは世界一の美食家としてガストロノミー界を牽引している浜田岳文さん。
前編では、浜田さんが食に興味を持ったきっかけやこれまでの人生の歩み、食を楽しんだ国々について伺いました。(前編はこちら)
後編では、浜田さんの“食”との向き合い方や今の日本のレストラン業界について感じていることなどを伺います。
ぜひ、浜田さんが考える美食の世界をご堪能ください。
※メンバー限定プレゼントをご用意しております。最後までお見逃しなく!
──1年のうち5ヵ月を海外で過ごす浜田さんは、どのように海外のスケジュールを作っているのでしょうか。
スケジュール作りは本当に大変な作業です。ここには私なりのノウハウが詰まっていて、なかなか「これが秘訣だ」と言えるものがありません。
海外へ行くときは2週間ほどの滞在が多く、その日程でスケジュールを組むには24時間ほどかかります。
まず、行きたい店の定休日を全て調べ、それぞれの立地も確認します。
地図上 では近くても、山間部にある店だと移動に予想以上の時間がかかることもありますよね。
反対に、離れていても高速列車が通っていれば効率的に移動できる場合もあります。
必要な情報を全て把握したうえで、最短での移動ルートを組み立てていきます。
いったんスケジュールを組んでも、店に連絡したら臨時休業と言われることも少なくありません。
その場合は全ての予定を見直し、ほぼ徹夜して調整することもあります。
2年前には6週間という長期の旅をしました。
イタリアを北から南まで巡る旅でしたが、さすがにその規模になると事前の計画は断念し、旅をしながら次の予定を組んでいきましたね。
──旅をする際は、食べ歩き以外にレジャーを楽しむこともあるのでしょうか。
基本的に食が中心ですが、私はクラシック音楽も好きなので現地のコンサートに行くこともあります。
特にクラシックの本場であるオーストリアのウィーンに行く際は、必ずオペラやコンサートも予定に入れますね。
他には宿泊先にも気を配ります。
各地で最高級のホテルを選ぶわけではありませんが、泊まること自体が目的となるような宿を選んでいます。
私はサウナも好きなので、サウナのある宿を優先的に選んでいますね。
事前の準備は大変な作業ですが、実際に現地で素晴らしいレストランに出会えた際の喜びは何物にも代えがたいものです。
その感動を求めて、このような旅を繰り返しています。
──レストランを選ぶ際の基準についてお聞かせください。
私は「わざわざ旅をする価値があるか」という点を重視しています。
例えば、フランスのパリに行ってまで日本食を食べたいとは思いません。
また、海外で日本の食材を多用している店もあまり行きたいと思わないですね。
私は「その国にしかない食材」「その国独自の料理文化」といった側面に価値を感じます。
ただし例外もあります。
例えば、以前ロンドンにあった「The Araki(ジ・アラキ)」は、すし職人の荒木水都弘さんという、世界を代表する方が営む店でした。
私は荒木さんが日本にいるときから知っており、荒木さんは世界のどこにいても訪れる価値のある職人です。
このように、日本にあったとしても行くような店が海外にあれば、日本食のレストランでも訪れます。
──海外のお店の情報はどのように得られているのでしょうか。
海外であれば、その国の人やエリアに詳しい人からの口コミ情報をもとにしています。
また、私がレビュアーランキング1位になっている「OAD」というサイトも貴重な情報源です。
「OAD」は高級レストランやカジュアルなど複数のカテゴリーがあり、500軒以上のリストがあるので、まずはこれを見ておけば間違いありません。
──入念に情報を集められていますが、ふらっとお店に入ることはありますでしょうか。
カフェやベーカリーのようなカジュアルな店でない限り、ふらっと入ることはありません。
事前の調査なしに素晴らしい店に出会える確率は極めて低く、そもそも美味しい店は歩いていて見つけられるような場所にあるとは限りません。
日本の人気店でさえ、看板を出していない店が増えています。
確かに、たまたま入った店が良い思い出になることはあります。
しかし、それは美味しい料理という価値より、ロマンやノスタルジーとしての価値です。
その街を代表するような店に行きたければ、きちんと事前の調査と予約が欠かせません。
・インタビュー終了後、スタッフに地方の魅力を語る浜田さん
──これまで海外のお話を伺いましたが、日本の食についてはどのように感じているのでしょうか。
最近は地方の盛り上がりに大きな可能性を感じています。
今の時代、料理人さんがオリジナリティを発揮するには、東京よりも地方の方が有利かもしれません。
東京には日本中のみならず、世界中の食材が集まります。
そのため、同じ価格帯のレストランであれば、どの店も似た食材にアクセスできます。
個性を出すためには「何を使い、使わないか」を慎重に選択しなくてはいけません。
一方、地方では、その土地の食材に限定した料理を作ることで、自然と個性が生まれます。
必ずしも最高級の食材ばかりではないかもしれませんが、だからこそ料理人さんの技術が肝となります。
その土地の食材を活かし、その地域ならではの料理を作り出す──。それが地方の強みです。
──具体的にどの地域に注目されていますか。
最近、注目しているのは茨城県です。
先日も茨城県のシェフたちが集まり、徳川家に伝わる『食菜録』というレシピ本からインスピレーションを得た料理を提供するイベントがありました。
数年前と比べても、シェフたちの切磋琢磨する姿勢が強まっており、非常に興味深い発展を遂げています。
他には富山県、新潟県、静岡県なども盛り上がっています。
例えば、富山県では料理人さんたちが「チーム富山」と呼ばれるほど結束が強く、良い意味での競争意識を持って切磋琢磨しています。
特に富山県では料理人さんと生産者の関係も良好です。
1軒のレストランだけの注文では、生産者に特別な食材を作ってもらうだけの需要を生み出せません。
しかし、複数の店が注文することで、素晴らしい食材の生産につながります。
面白い事例だと、魚介の仲卸である「サスエ前田魚店」が静岡県で重要な役割を果たしています。
「サスエ前田魚店」に毎朝料理人自ら通うレストランが静岡県には5、6軒あり、全て予約の取れない人気店になりました。
このような食に関する取り組みは、単に食文化の発展だけでなく、地域全体のブランディングにも繋がっています。
地方はインバウンドを含めた観光が活性化の原動力になりますが、食は人の流れを生む可能性を秘めています。
──浜田さんのお話を聞き、食に興味を持った方はたくさんいると思います。そのような方は、まず何から始めれば良いのでしょうか。
まずは“料理と向き合う”時間を持っていただきたいと思います。
食事には様々な場面があります。
友人とワイワイ楽しむ時や仕事の接待、家族との団らんなど──。
それぞれ大切な時間ですが、時には料理そのものに集中して向き合うのも良いのではないでしょうか。
音楽で例えるとドライブしながらBGMとして聴くのと、じっくりと向き合って聴くのとでは、全く異なる体験になりますよね。
料理も同じです。「料理人が何を考えて作っているのか」「食材の特徴は何か」「どのような調理法が使われているのか」といったことに意識を向けると新しい発見があるはずです。
──浜田さんの今後の活動についてお聞かせください。
私はレビュアーランキングで1位になっていますが、決して目指して得た順位ではありません。
私が素晴らしいと思ったレストランを応援したくてレビューを書いたり投票したりしただけです。
今後も「1位のために頑張ろう」とは思わずに食を楽しみたいと思います。
私は自分のことをクリエイティビティに欠けると認識しており、絵を描くことや音楽を作ること、字を書くことすら苦手です。
だからこそ、料理人さんのようにクリエイティビティのある方たちを心から尊敬しています。
近年は誰がどう調理しても不味くならないようなものが人気を博していることに若干の懸念を抱いています。
例えば、私が茹でたパスタに高級なキャビアを載せたら不味くなりようがないですよね。
私はこういった料理を料理だと思っていません。
料理人というからには料理をすること、つまり「加工」することが仕事です。
なので、私は料理人さんの技術や哲学にスポットライトが当たるように発信し、多くの方にこの付加価値を知ってもらいたいと考えています。
素晴らしい料理人さんが成功し、料理を続けられる世界であってほしい──。
この想いで活動を続けていきます。
──浜田さんの食へ対する向き合い方や情熱などが伝わるお話をありがとうございました。最後に浜田さんの著書である『美食の教養』についてお聞かせください。
私の著書『美食の教養』では、どのように食と向き合うと良いかを提案しました。
食との向き合い方は人それぞれなので、決して私の考えを押し付けることはありません。
純粋に栄養補給として食事を摂る人もいれば、感覚的に「うまい」と思えるものだけ食べる人、私のように料理人のクリエイティビティを楽しむ人もいます。
人として生きていくうえで、食はなくてはならないものです。
その中で、私の視点で食という文化、そしてクリエイティビティを享受する楽しみ方を提案した本となります。
ぜひ、この本をきっかけに人生が楽しくなるお手伝いができれば幸いです。
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