読むひらまつ。|~京の食を編む~ 秋、丹波のテロワール|秋分|Experience|SAISON Luxury Lounge
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Trip & Travel

京都

THE HIRAMATSU 京都

読むひらまつ。|~京の食を編む~ 秋、丹波のテロワール|秋分

<秋、丹波のテロワール>

厳しい夏の暑さも落ち着き空が高くなってくると、どこからともなく風が秋の気配を運んできます。
野山が季節の恵みをたっぷりと蓄え、葉が少しずつ色づいてくると紅葉はすぐそこ。
収穫期は農家や生産者のみなさんはもちろん、料理人の心もはやるものです。

収穫で活気づく丹波の生産者さんを求めて、京都の料理に特化した食材のプラットフォーム「株式会社ミナト」主催のツアーに参加させていただきました。
「THE HIRAMATSU 京都」の料理人たちが受け取った季節の恵みは、どんな一皿になるのでしょうか。

日本最古の地域ブランド「丹波くり」

兵庫県から京都府に広がる丹波地方(旧丹波国)。
今回は丹波地方のなかでも、京料理に欠かせない食材を多く生産する京都府「京丹波町」を訪れました。
なかでも「栗」は日本原産の品種で、艶を帯びた深い色合いと立派なサイズが特徴です。
今回訪れた「丹波農園」の榊原 芳樹(さかきはら よしき)さんによれば「平安時代の書物に登場するほど、この土地では昔から栗を大切に育ててきた」そうです。

「毎朝、あたり一面に靄がかかるくらい寒暖差が激しい土地です。冬は-10℃にもなる厳しい環境が良い栗を育てるのでしょう。いま20種類の栗を3000本ほど植えてあります。この農園の特徴は、地面には草をはやし、根で土を耕す『草生栽培』を用いているところ。軟らかくなった土の上で太陽の光をたっぷり浴びるように低く、広く育てています。また、十分に熟して自然に落ちた栗を拾うのはもちろんですが、生物としての熟成が終わった栗を木にしがみつかせていても風味が落ちるばかり。木の上で傷むのを防ぐために、毎日木を叩いて栗を落とし、できるだけ速やかに冷蔵しています。熟成完了から冷蔵までの時間を短くすることで、栗が余分なエネルギーを使わないで済むため、良い風味が保てるのです。栗の収穫は太陽の上りきらない夜明けから始まる重労働ですが、こうした日々の積み重ねで丹波くりのブランドに恥じない味を守り続けています。」

栗拾いに夢中になっていると、あっという間に軽トラック一杯になる。

いずれも栗拾いが初体験という「THE HIRAMATSU 京都」の料理人たち。

 

丈夫な毬(いが)に守られた栗。

立派な栗を育てる秘訣を話してくれたのは、「丹波農園」の榊原 芳樹さん。

栗への情熱、地域への想いも受け取った。

通常の栗がM〜Lサイズとすると、「丹波くり」は4Lサイズにもなる。

早く成長するものを早生(わせ)、遅いものが晩生(おくて)と呼ぶ。取材時の収穫はその中間の中生(なかて)。

実りを祝ういのちの収穫祭

今回のツアーでは「丹波農園」の他に、安心で安全なジビエの肉を専門に扱う「鹿肉のかきうち」、京都の食文化に合うワインを作っている「丹波ワイン」など、土地の恵みを扱う生産者のみなさんにもお話を伺うことができました。
ツアーの最後に催された収穫祭では、「THE HIRAMATSU 京都」の料理人たちもその恵みを堪能したようです。

「ひとつの毬(いが)に3つも栗が入っているなんて初めて知りました。それも一粒がとても大きいので、あの迫力をデザートに盛り込みたいですね。」とは、「リストランテ ラ・ルーチェ」のシェフパティシエ、八田 栄治。
さっそく、盛り付け用に大きな栗を抱えていました。

一方、料理長、筒井 崇海は「栗の味を引き出す榊原さんの技と情熱に感心しました。それから『鹿肉のかきうち』で見た鹿も、いのちの尊さと美しさに改めて気付かせてくれました。豊かな土地と生産者に恵まれていることを実感し、料理人として身が引き締まります」と、思いを新たにしたようです。
それぞれが受け取った恵みのバトンは、収穫の喜びを感じる一皿になりました。

「鹿肉のかきうち」でジビエの鹿肉について教えてくれた前田 侑記子さん。

日本で唯一、樹齢35年のピノ・ノワールなどが育つ「丹波ワイン」。

葡萄畑で創業からの挑戦について話す黒井 衛住さん。 

試飲で料理とのペアリングをイメージする。 

車海老のタルタル仕立て 丹波くりのスープ掛け/丹波くりのモンブラン/栗づくしのウェルカムスイーツ by リストランテ ラ・ルーチェ

筒井が手掛けるのは鹿児島産の「活車海老」のプリッとした食感を残したタルタルに、「丹波くり」のソースをかけた一皿。
「噛むほどにひろがる海老と栗の甘味を土佐酢のジュレがさっぱりと引き締めます」と筒井。
さらに、栗の花から取った蜂蜜の香りが鼻に抜け、一皿にさまざまな質感の甘味が凝縮されています。
クリームチーズで和えた根セロリとインゲンの食感に、フライにしたネギの風味が印象的です。

シェフパティシエの八田からは2種類のデザートをご紹介。
コースの締めにお出しするデザートは「丹波くりのモンブラン」です。
栗には、カシスなどの酸味とコーヒーやチョコなどのスモーキーな香ばしさが合うとされています。
そこで、八田は「ほっくりとした甘味の『丹波くり』にはユズの酸味とほうじ茶の香りの方が合う」と考えました。
素材の魅力を大切にしたシンプルな一皿に秋の訪れを感じます。

そして、10月限定プランで提供されていた人気のウェルカムスイーツも栗づくしでした。
甘さが優しい「クレームブリュレとサツマイモのスープ」、「丹波くりのモンブラン」、「ほうじ茶のパンナコッタと栗のグラッセ」、「カシスと栗とショコラのタルト」「ラム酒とレモンを効かせた栗のマカロン」と、さまざまな栗をそれぞれの味に合わせて仕立てた5品をシャンパーニュとともにスイートルームでゆっくりお楽しみいただきました。

海老のプリッとした食感と栗の優しい甘さを合わせる意外性が筒井らしい。

 

王道のモンブランに八田らしい和のアクセントを効かせた一皿。

 

栗づくしのウェルカムスイーツは、お部屋でシャンパンとゆっくり頂くのにぴったり。

ひとさらの文脈

今回ツアーに同行し、「株式会社ミナト」のみなさんが一生懸命に生産者の魅力を伝えているのが印象的でした。
湊 浩さんは「創業者は物がなかった時代に必要なものを不足なく揃えようと頑張った。
でも、いまはなんでも手軽に手に入る時代だからこそ、良い生産者を見つけて良い料理人に繋げることが自分たちの仕事」と、胸を張ります。

こうして命に向き合うそれぞれの想いがひとつの料理として結実する。
まさに、命が循環する食の本質に迫る体験となりました。
旬の食材と料理人の出会いは一期一会の世界。
生産者はその年で最高の食材を、料理人はその年にベストな一皿を生み出し、お客さまのテーブルへお届けしています。

(取材日:2022年10月初旬)

「読むひらまつ。」とは   

ホテルに滞在することや、レストランで食事をすることと同じように、旅の前後にふと感じる何気ない瞬間も“ひらまつ”であって欲しい。その土地の風土を紐解き、ゲストに向き合うことで旅の魅力を最大限に引き出す「ひらまつの物語」です。